大阪本町・坐摩神社で出会った陶芸家・森脇要さん。土感あふれる渋い器と、ユニークな「コーヒーカップ」で人気を集める作家の魅力を深掘り。
丹波篠山から生まれる個性派のうつわたちと、作品に込められた思いを紹介します。
灼熱の坐摩神社で出会った一人の作家
2025年夏、大阪市本町にある坐摩(いかすり)神社夏祭りで同時開催された『大阪せともの祭り』。
灼熱の太陽が容赦なく照りつけるなか、境内に並んだ陶器たちは、思わず手を引っ込めたくなるほどの熱を帯びていました。
そんな中にひときわ異彩を放つブースがありました。土の質感を残した渋めの器に、白く立体的な文字で「コーヒー」や「珈琲」と描かれたユニークなマグカップたち。そこに立っていたのが、今回ご縁をいただいた陶芸家・森脇要さんです。



「何となく始めた陶芸」という選択が導いた道
森脇さんは1980年、島根県松江市美保関町のご出身。大学は文学部、在学中に明確な進路はなかったものの、「ものづくり」への漠然とした憧れを抱いていたそうです。
卒業後、「やりたい仕事」よりも「やりたくない仕事」を削っていくという逆説的な思考の中で、最終的に残ったのが陶芸の道。
2007年に京都伝統工芸専門学校を卒業し、丹波焼の名工・市野信水氏のもとで学び、修行のかたわら2012年から自分の器を作り始め、2020年より丹波篠山市で独立しご自身の工房を築かれました。

赤土に浮かぶ文字、印象に残る「コーヒーカップ」
一見、落ち着いた渋みのある器たち。そこに大胆に描かれる「コーヒー」「珈琲」の文字。このギャップが、見る者の記憶に強く残ります。
文字の入った部分は、赤土の生地の上から白化粧土をのせることで、少し盛り上がった質感に。染付や釉薬の掛け分けではないこの技法は、器により一層の個性と存在感を与えています。
「いつ思いついたかは覚えていないけれど、何となく浮かんだんです」と語る森脇さん。
しかし、その『なんとなく』が、今や「コーヒーカップの人」として知られるきっかけとなったのです。

独自の焼成技法「冷却還元」で深まる味わい
森脇さんの器は電気窯を使用しながら、途中からガスを導入して酸素を減らす「還元焼成」で焼かれます。さらに、温度が下がってきても還元をかけ続ける「冷却還元」という手法を採用しています。
この焼成方法により、器に深い色合いや表情が生まれ、使い込むごとに変化していく味わいが楽しめるのです。見た目だけでなく、使い心地や経年変化まで計算された、まさに“生きているうつわ”といえるでしょう。
土にこだわり、島根の石を釉薬に
土選びにも森脇さんのこだわりが光ります。少し粗めの土を使用することで、手に取ったときのざらりとした感触や土っぽさを大切にしています。
さらに、地元・島根県で採れる「来待石(きまちいし)」を釉薬に加えることで、独自の風合いと色合いを表現。素材への敬意と故郷への思いが詰まった器たちは、どれも一点ものの存在感を放っています。

珍しい「黄色い三島手」に挑む
現在、森脇さんが力を入れているのが「三島手(みしまで)」のうつわ。白を基調とする三島手が一般的ですが、あえて黄色みのある土と釉薬を用いて、他にはない温かみのある仕上がりを目指しています。
「白い三島手はよく見るけど、黄色の三島手は珍しい。自分にしかできない表現を追求したい」と語る森脇さん。伝統技法に現代的な感覚を加えた挑戦は、これからの作品にも大きな期待を抱かせてくれます。


うつわギャラリー陶和にも少しずつ入荷中
会場の熱気以上に熱を帯びた森脇さんとのお話。楽しい時間でした。
森脇さん、ありがとうございました。
そんな森脇要さんの作品は、うつわギャラリー陶和でも取り扱いがスタートしました。少しずつ店頭に並びはじめております。
ひとつひとつ違った表情を見せるうつわたちを、ぜひ手に取ってご覧ください。使うほどに愛着が増す、日々の暮らしを彩るパートナーになるはずです。