2026年7月25日、「夏をしつらえるうつわ展~はしもとさちえ・山田奈緒子二人展~」の初日。
展示を楽しみにご来場くださった皆さまに向けて、陶芸作家・はしもとさちえさんと、吹きガラス作家・山田奈緒子さんによるトークショーを開催しました。
和やかな雰囲気の中、お二人が作品づくりへの想いや制作の裏話を語ってくださり、笑いあり、深く考えさせられるお話ありの、あっという間の時間となりました。
お二人の創作との出会いと、ものづくりの原点

まずは、それぞれが現在の仕事に至るまでのお話から。
山田さんは大学卒業後、沖縄へ渡り、吹きガラス工房へ自ら電話をかけて弟子入りされたという行動力あふれるエピソードを披露してくださいました。
一方、はしもとさんは建築を学ぶために進学した大学で陶芸と出会い、「土に触れ、ろくろを回した瞬間にしっくりきた」と、その頃を振り返られました。
ものづくりとの出会いは違っていても、「これしかない」と感じた瞬間が、お二人にはあったのだと感じられるお話でした。
作品に込める、それぞれの想い
制作で大切にしていることについても、お二人のお話はとても印象的でした。

山田さんは、
「機能性・社会性・道徳性」
という三つを大切に作品を作っているとお話しくださいました。
器として使いやすい機能性はもちろん、自分と社会をつなぐ存在として意識的に何かしらの役割を担おうとする社会性、それを確実なものとするための道徳性。その想いを制作の核にしているという言葉が、とても心に残りました。

一方、はしもとさんは、
「使っていて嬉しい、楽しいと思える器を作りたい」
という、とてもシンプルで温かな想いを語られました。
料理が楽しくなり、暮らしが少し豊かになる。
そんな日々の小さな幸せを器に込めているというお話に、会場では共感のうなずきが広がりました。
制作の裏側だから聞ける苦労話も
会場では制作中の苦労についてのお話も。
吹きガラスは真夏の暑さとの戦い。
「冬に比べると夏は生産量が半分くらいになることもある」
という山田さんのお話は、その差に驚きが広がりました。
はしもとさんも、
「体力と老眼が最近の課題です」
と笑いを誘いながらも、細部まで妥協しないものづくりへの姿勢を語ってくださいました。
完成した作品だけでは見えない、作家ならではの苦労を知ることができるのも、トークショーならではの魅力です。
実際に作品を手に取りながら
後半は、お二人が実際に作品を手に取りながら、それぞれの制作について詳しくお話しくださいました。
沖縄から受け継がれた「泡ガラス」の技法

山田さんの代表作でもある「泡ガラス」。
この特徴的な表情には、沖縄の吹きガラスの歴史が息づいています。
もともとは戦後、米軍が残したコーラ瓶などを再生して吹きガラスを作る中で、どうしても入ってしまう気泡を「欠点」ではなく「美しさ」として生かそうと考えられたことから生まれた技法だそうです。
その表現を考案した師匠から受け継ぎ、弟子それぞれが独自の表現へと発展させてきた泡ガラス。
山田さんもその一人として、さまざまな表情の泡を作品に取り入れながら、ご自身ならではの世界観を作り上げておられます。
一つひとつ異なる泡の表情を眺めながら、その背景にある物語を知ることで、作品がより一層魅力的に感じられました。
一人で担う吹きガラス制作の大変さ
制作工程についてのお話では、吹きガラスならではの苦労についても触れられました。
一般的に吹きガラスは、竿を回す人や道具を渡す人など、複数人で息を合わせながら制作する工房も少なくありません。
しかし山田さんは、その工程のほとんどをお一人でこなされています。
高温で柔らかくなったガラスは、ほんのわずかな時間の中で形を整えなければなりません。
タイミングを見極めながら、ガラスを吹き、回し、道具を持ち替え、形を作っていく。
その一連の工程を一人で行うためには、高い技術だけでなく、体力や集中力も欠かせません。
さらに真夏の工房は想像を超える暑さ。
「夏はどうしても制作のペースが落ちてしまう」というお話からも、私たちが普段手にしている一つのグラスが、どれほどの手間と経験の積み重ねによって生まれているのかを改めて実感する時間となりました。
「土鍋は育てる楽しみがある器」

はしもとさんのお話の中で、とても印象的だったのが土鍋についてのお話でした。
「土鍋は買った時が完成ではなく、使いながら育っていくもの。」
最初は少しずつ火に慣らし、何度も使うことで器も暮らしも馴染んでいく。
便利さだけを求めるのではなく、毎日の料理の時間を楽しみながら、自分だけの道具へと育てていく。
そんな考え方には、器を「暮らしの道具」として大切にされている、はしもとさんらしいものづくりの姿勢が感じられました。
しかも、「土鍋の蓋を置く出っ張りとその下の本体との繋がり部分のカーブが自然でしゃもじがひっかかからないので、お米を一粒残らずこそげ取れる」という指摘に、はしもとさんご自身は、「え?自然に作っていてそんなこと考えたことがなかった」と使う人ならではの視点がはからずも暴露されました。
料理がもっと楽しくなる器を届けたい。
その想いが、土鍋一つひとつにも込められています。
見えない手仕事が生み出す銀彩の美しさ
はしもとさんの作品づくりの工程についてのお話では、「銀彩磨き」の作業にも話題が及びました。
銀彩の器は、焼き上がっただけでは完成ではありません。
焼成後に一点一点丁寧に磨きをかけることで、柔らかな光沢と奥行きのある表情が生まれます。
手間も時間もかかる作業ですが、そのひと工程が作品全体の印象を大きく左右します。
普段は完成した器しか見ることができませんが、その美しさの裏側には、こうした地道で丁寧な仕事が積み重ねられていることを知り、とても濃密な時間を共有できた気持ちになりました。
見えない部分にまで心を配るものづくりこそ、はしもとさんの作品の魅力なのだと改めて感じました。
作家同士だからこその掛け合いも
今回のトークショーでは、お二人の自然な掛け合いも大きな魅力でした。
山田さんのガラスについて、はしもとさんは
「もう10年くらい使っています。本当に割れにくいんです。」
と、ご自身の愛用品として紹介。
さらに、泡のあるグラスは「見た目がかわいいだけではなく、滑りにくく持ちやすい」と、その使い心地まで話してくださいました。
実際に使っている作家だからこその言葉には説得力があり、会場のお客様も大きく頷かれていました。
山田さんも照れながら耳を傾け、お互いを認め合う温かな空気に包まれた時間でした。
そして、山田さんは、この時点では、はしもとさんのうつわはお持ちではなかったのですが、後日「今回の展示会で初めてはしもとさんの器を購入しました。カッコよさに使う度に惚れ惚れしています」と寄せてくださいました。
コラボ作品に込めた想い

今回の二人展では、お二人によるコラボレーション作品も見どころの一つです。
トークショーでは、その制作秘話も語られました。
はしもとさんは、山田さんの吹きガラス作品の「ぽってりとした優しい存在感」をイメージしながら制作されたことを紹介。
淡いミントグリーンの釉薬を合わせ、ガラスの柔らかい雰囲気と自然につながるように意識したそうです。
「細くシャープな印象ではなく、ふわっとしたやさしさを表現したかった。」
そんなお話を聞くと、展示されている作品がまた違った表情に見えてきます。
お互いの作品を理解し、尊重し合っているからこそ生まれたコラボレーション。
ぜひ実際に会場で、その世界観をご覧いただきたい作品です。
作り手の言葉を聞くことで、器がもっと好きになる
作品だけを見ていても十分に魅力的ですが、その背景にある考え方や制作への想いを知ることで、一つひとつの器がより特別な存在に感じられます。
山田さんが語られた吹きガラスへの想い、考え。
はしもとさんが大切にされている、暮らしに寄り添う器づくり。
そして、お互いを尊敬し合うお二人だからこその温かなやり取り。
笑いあり、驚きあり、深いお話ありの約1時間は、本当にあっという間でした。
ご参加くださった皆さま、ありがとうございました。
現在開催中の「夏をしつらえるうつわ展」では、そんなお二人の想いが込められた作品をご覧いただけます。
ぜひ会場で、作品を手に取りながら、トークショーで語られたエピソードも思い出していただければ嬉しく思います。
8月2日(日)まで


